本書は、地方大規模イベントとしては異例の、まち歩きをメインに位置づけたオープンエリア型の形式ながら、結果として観光入込客数前年度比+約7%を記録し大成功に終わった「長崎さるく博’06」の企画・運営の過程を総合プロデューサーとして携わった著者の視点で記されたものである。地方イベントに際し、市民ガイドや市民プロデューサーという形で、市民の力がイベントの担い手として最大限に活かされたという意味で異例であり、注目を浴びた「長崎さるく博‘06」において、前例がないという点から多くの障壁が立ち塞がり、多くの人々からイベントの失敗を指摘されながらも、頑なに市民主体を目指した著者を始めとした企画側の人々の苦労は想像を絶する。そういった著者たちが向き合った多くの障壁、またその障壁への対処方なども隠すことなく述べられている点がまた現実的で面白い。
本書を通じて、観光とは何かと考えさせられる。その地域の魅力を余すことなく打ち出し、それを域外の人々に享受し、楽しんでもらうのが観光であり、観光地のあるべき姿なのではないか。至極シンプルではあるが、これが本質であって、これ以上を求めると観光地はその地域らしさを失ってしまうはずである。
著者はこれからの観光地の在り方を以下のような主旨で語っている。―そのまちの歴史や伝統を活かした地域らしさがそこにはあり、地域住民たちがそれらを支える大きな役割を担っている。観光を通して住民が「わがまちらしさ」に目を向け、育み、「わがまち」に愛着や誇りを持つようになることで観光客を受け入れる大きな基盤となる。それが魅力的で持続的な観光地への近道なのではないか。そして、それは魅力的なまちへの近道でもある。―「観光」と「まちづくり」は表裏一体なのである。
茶谷幸治『まち歩きが観光を変える 長崎さるく博プロデューサーノート』、学芸出版社、2008年
文責:赤松智志(総合政策学部3年)