「2019年に向けて、都市計画史を考える」(『新都市』、平成28年4月号)
『新都市』の平成28年4月号に、中島直人「2019年に向けて、都市計画史を考える」が掲載されました。都市計画遺産研究会の活動を紹介しながら、これからの都市計画史研究について展望しています。
目次
1都市計画史の歩みと三つのアプローチ
22019年に向けたいくつかの宿題
3空間履歴としての都市計画アーカイブ
4地域コミュニティに向き合う都市計画史
機会があれば、ぜひ、ご笑覧ください。
「現代都市の文脈としての都市計画遺産」(『建築雑誌』2015年5月号)
『建築雑誌』2015年5月号(特集:都市史から領域史へ)に「都市計画遺産研究会」の紹介記事を寄稿しました(執筆:中島直人)。以下、全文です。
現代都市の文脈としての都市計画遺産
都市計画遺産研究会は、都市計画史研究の活性化を目的に、2010年度より活動している。我が国の都市計画史研究者の第一世代は、1970年代後半から80年代前半にかけて都市計画史研究会を組織し、市区改正条例百周年にあたる1988年の国際都市計画史学会(IPHS)の東京開催を経て、1990年代初頭までにいくつかの重要な著作を成果として残した。その後も、都市計画史分野では継続して一定数の論文が発表されたが、方法論や対象についての飛躍的な展開は見られなかった。2000年代半ばになって、都市計画史の新たな叙述や役割を開拓しようとする若手の研究者が著作を発表し始めた。そうしたいわば「第三世代」の30代、40代の都市計画史研究者で組織したのが都市計画遺産研究会である。
都市計画遺産研究会は、都市計画史研究とまちづくり、都市デザイン、都市計画の現場との接続を志向し、「都市計画遺産(planning heritage)」という都市空間の捉え方の確立を目標として掲げている。現代都市の最大の課題である都市空間ストックのリノベーションの基盤として、現在の都市空間への認識をさらに豊かにしていく必要がある。私たちの眼前には、とりわけ戦後に大きく変化した都市空間が広がっているが、その殆どは都市計画の影響を受けて形成されてきたものである。これからの都市計画史研究の重要な役割は、都市計画を抽象化された技術体系や自己完結した個別スポット事業としてではなく、領域的な空間履歴として把握した上で、その履歴の海の中から、都市計画の思想、技術、社会、経済、文化的視点からの多角的なアプローチによって、まちづくりに生かすべき地域文脈を共有可能なかたち(それを「遺産」と呼ぶ)で抽出してみせることである。東日本大震災直後にwikiを利用して緊急開設した「三陸海岸都市の都市計画/復興計画史アーカイブ」は、その試行であった。現在、『都市計画遺産アトラス』という書籍の刊行を準備している。
また、都市計画遺産としての日本の都市空間、市街地形成の特質を理解するためには、欧米との比較に留まらず、欧米とは異なる都市の原型、履歴を有する諸国の都市計画史を第三局においた「三点測量」による立体的な定置が必要である。研究会の具体的な取り組みとしては、近年、組織的な活動を開始している中国の都市計画史研究者たちとの交流・協働を推進している。2013年10月に東京にて開催した日中都市計画史研究セミナーは、第二回を2015年3月に中国の浙江大学にて開催した。また、2019年の都市計画法制定百周年を節目として、海外への日本、そしてアジア都市計画史の発信力を強化するために、研究会メンバーだけでなく第一世代以降の研究者にも広く声がけし、都市計画史研究者の会(Planning Historians’ Meeting)を運営し始めている。
『いいビルの写真集 WEST』と『東京建築 みる・あるく・かたる』
前現代委員会のスター、高岡伸さんが引っ張るBMC(ビルマニアカフェ)の渾身の一作『いいビルの写真集 WEST』(2012年7月刊行)があちこちで話題になっています。また、もう一人のスター、倉方俊輔さんの新刊『東京建築 みる・あるく・かたる』も、先週、発売になったようです。新世代新感覚のまち建築ガイド本です。
学会誌に都市計画遺産研究会関連の論考
報告が遅れてしまいましたが、日本都市計画学会の学会誌『都市計画』に2号連続して、都市計画遺産研究会メンバーによる研究会活動に関連する論考が掲載されました。
1 田中暁子・中島伸「都市計画史研究がまちづくりに貢献する可能性」『都市計画』、298号、pp.72-75、2012年8月
2 中島直人「『三陸海岸都市の都市計画/復興計画アーカイブ』に学ぶ」『都市計画』、299号、pp.84-87、2012年10月
是非、ご覧になって下さい。
過去の津波被害からの復興計画史調査
ご報告が遅れてしまいましたが、この夏に、都市計画学会の実施した「過去の津波被害からの復興計画史」調査に、都市計画学会共同研究組織である都市計画遺産研究会のメンバーも協力しました。岩手、宮城における復興計画史に関する資料を収集し、都市別に整理しました。報告書自体はまだ先の発行になりそうです。都市計画遺産研究会としては、ここで得た知見を「三陸海岸都市の都市計画/復興計画アーカイブ」に反映させて公開していくのと同時に、引き続き、今回の被災地のより詳細な調査を行い、減災のための都市計画、まちづくりについて提言していきたいと考えています。なお、夏の調査に基づいた簡単な報告を、メンバーの中島が『建築雑誌』2011年11月号に寄稿しました(中島直人「計画遺産のアーカイビング 三陸地方の復興計画史からの展望」)。また、同内容を、明治大学建築史・建築論研究室主催の都市発生学研究会でも発表しました(当日の報告内容については、青井哲人先生がブログに感想を書いて下さいました)。以上、是非、ご一読ください。
三陸の復興計画史に関する二つの論考
都市計画遺産研究会で作成した「三陸海岸都市の都市計画/復興計画史アーカイブ」を活用するかたちで、研究会メンバーの中島直人と田中暁子の共著で、以下の二編の論考を執筆しました。
後者については、日本都市計画学会のウェブサイトで全文公開中です。
今回の復興にあたって、「過去を知り、未来を展望する手がかりとする」ということを実践していきたいと考えています。
ご関心のある方、是非、ご一読下さい。そして、アーカイブの方も、是非是非、ご活用下さい。
資料紹介等のご相談も受け付けております。ご連絡は都市計画遺産研究会幹事(manager[atmark]planning-heritage.net)までお願い致します。 Bolest hlavy
初田香成『都市の戦後 雑踏のなかの都市計画と建築』出版
都市計画遺産研究会幹事の一人、初田香成氏の初の単著『都市の戦後 雑踏のなかの都市計画と建築』が東京大学出版会から出版されました。これまでの都市計画史研究や都市史研究の成果を方法論的に解析・消化した上で、「都市の戦後」という未知なる領域を切り拓き、「都市の土台」に迫っていく野心作です。都市計画遺産研究会として、近いうちに、書評会を開催する予定です。