「現代都市の文脈としての都市計画遺産」(『建築雑誌』2015年5月号)
『建築雑誌』2015年5月号(特集:都市史から領域史へ)に「都市計画遺産研究会」の紹介記事を寄稿しました(執筆:中島直人)。以下、全文です。
現代都市の文脈としての都市計画遺産
都市計画遺産研究会は、都市計画史研究の活性化を目的に、2010年度より活動している。我が国の都市計画史研究者の第一世代は、1970年代後半から80年代前半にかけて都市計画史研究会を組織し、市区改正条例百周年にあたる1988年の国際都市計画史学会(IPHS)の東京開催を経て、1990年代初頭までにいくつかの重要な著作を成果として残した。その後も、都市計画史分野では継続して一定数の論文が発表されたが、方法論や対象についての飛躍的な展開は見られなかった。2000年代半ばになって、都市計画史の新たな叙述や役割を開拓しようとする若手の研究者が著作を発表し始めた。そうしたいわば「第三世代」の30代、40代の都市計画史研究者で組織したのが都市計画遺産研究会である。
都市計画遺産研究会は、都市計画史研究とまちづくり、都市デザイン、都市計画の現場との接続を志向し、「都市計画遺産(planning heritage)」という都市空間の捉え方の確立を目標として掲げている。現代都市の最大の課題である都市空間ストックのリノベーションの基盤として、現在の都市空間への認識をさらに豊かにしていく必要がある。私たちの眼前には、とりわけ戦後に大きく変化した都市空間が広がっているが、その殆どは都市計画の影響を受けて形成されてきたものである。これからの都市計画史研究の重要な役割は、都市計画を抽象化された技術体系や自己完結した個別スポット事業としてではなく、領域的な空間履歴として把握した上で、その履歴の海の中から、都市計画の思想、技術、社会、経済、文化的視点からの多角的なアプローチによって、まちづくりに生かすべき地域文脈を共有可能なかたち(それを「遺産」と呼ぶ)で抽出してみせることである。東日本大震災直後にwikiを利用して緊急開設した「三陸海岸都市の都市計画/復興計画史アーカイブ」は、その試行であった。現在、『都市計画遺産アトラス』という書籍の刊行を準備している。
また、都市計画遺産としての日本の都市空間、市街地形成の特質を理解するためには、欧米との比較に留まらず、欧米とは異なる都市の原型、履歴を有する諸国の都市計画史を第三局においた「三点測量」による立体的な定置が必要である。研究会の具体的な取り組みとしては、近年、組織的な活動を開始している中国の都市計画史研究者たちとの交流・協働を推進している。2013年10月に東京にて開催した日中都市計画史研究セミナーは、第二回を2015年3月に中国の浙江大学にて開催した。また、2019年の都市計画法制定百周年を節目として、海外への日本、そしてアジア都市計画史の発信力を強化するために、研究会メンバーだけでなく第一世代以降の研究者にも広く声がけし、都市計画史研究者の会(Planning Historians’ Meeting)を運営し始めている。
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