成熟社会 都市ストックの再編
1月 20th, 2012

【書評】藤井聡・谷口綾子『モビリティ・マネジメント入門』

 本書は、1990年代後半からヨーロッパやオーストラリア、そして日本で始められ、発展してきた、「コミュニケーション」を重視する新しい交通政策の考え方―「モビリティ・マネジメント(=MM)」―の概要と各事例を、大きく海外・国内に分けて紹介したものである。

 本書では、地域モビリティの衰退や渋滞等のさまざまな交通問題を、単なる技術やシステムの問題ではなく、「人間」が引き起こした社会的な問題と捉えている。そのうえで、コミュニケーション施策などの「ソフト」施策と、交通システムの運用改善や整備などの「ハード」施策を適切に組み合わせながら、当該の地域や交通を、「過度に自動車に頼る状態」から、「公共交通や徒歩などを含めた多様な交通手段を適度に(=かしこく)利用する状態」へと変えていく一連の取り組みを、モビリティ・マネジメントと定義している。

 モビリティ・マネジメントの中心であるコミュニケーション施策の一般的な流れは、次の通りである。

①  MM実施者から、一人ひとりに接触を図り、参加者から情報を提供してもらう。

②  MM実施者の方で、得られた情報を踏まえて、提供する情報・メッセ―ジを改めて加工する。

③  MM実施者から、加工した情報、メッセージを提供(フィードバック)する。

 以上はあくまでも一般的な例であって、実施規模や土地条件によって施策は変わるが、対象となる一人ひとりに、個別的、かつ、大規模にコミュニケーションをとることが、MMにおけるコミュニケーション施策の特徴である。

 本書の、「モビリゼージョンが進行したのは、交通事業者がモビリゼーションに対抗する有効な処置を取れなかったからである」という指摘はとても興味深く、交通事業者が顧客主義のもと、ホスピタリティーを持って利用者と真摯に向かい合うことが必要だと感じた。環境への配慮から公共交通機関の存在感が増している昨今において、モビリティ・マネジメントという考え方は、さらにその流れを加速させる契機になるのではないか。

藤井聡・谷口綾子『モビリティ・マネジメント入門―「人と社会を中心に捉えた新しい交通戦略」』、学芸出版社、2008年
文責:湯浅資(総合政策学部1年)

by naoto.nakajima | Posted in 授業関係, 書評・文献紹介, 研究会B(1) 都市計画・都市デザイン | 【書評】藤井聡・谷口綾子『モビリティ・マネジメント入門』 はコメントを受け付けていません |

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