本書は、都市空間における「自由空間」を、単に空間を設計するという姿勢だけではなく、社会的文化的な現象として組み立てる観点から魅力的な自由空間を作り出すことを目的としている。そのために古代から現代まで、工学から歴史学、人類学を駆使し、都市再生の原点となる自由空間の意味と歴史を描き出したものである。
本書ではまず、自由空間の原点となる道や道的空間についてアンデスの幹線道路・ニュータウンの道・江戸時代など複数の異なった時代・場所の例を提示し、それぞれの道の歴史や使用例について解説、その後平安京や江戸の街路の特徴について解説している。
その次に原始時代の集落から空地について分析、古代から空地は人々の生活にとって必然的な空間だったと述べている。
その後都市の成立過程について解説した後、現代都市における自由空間について解説している。現代の都市においては、自由空間が以前と比較して多様なものとなった。たとえば、地下街はもちろんのこと、駅やビルのロビー、大規模なショッピングセンターなどの新しい形の自由空間も増加した。
その一方で自動車交通の急速な発達と共に、重要な共有的な自由空間であった街路が自動車によって阻害されていることを問題視している。
そして様々な現代における自由空間の例を列挙した後、都市の自由空間はそこを利用するその地域の人がまずその空間の価値を発見することが不可欠である、と締めくくられている。
本書は自由空間についてその原点の歴史・各国の事例から振り返ることのできる包括的な解説本である。特に、近年増加している新しい形の自由空間についての解説は大変共感できた。実際にターミナル駅の駅ビルなどは人々の憩いの場となっている。そこがまさに自由空間なのだと気づくきっかけを与えてくれた。都市のまちづくりを調べている課程で自由空間は必要不可欠な存在であるので、広く勧めることのできる本だと思う。
鳴海邦碩『都市の自由空間 -街路から広がるまちづくり-』学芸出版社、2009年
文責:浅香健太(環境情報学部 2年)