成熟社会 都市ストックの再編
12月 19th, 2011

【書評】宇杉和夫他編著『まち路地再生のデザイン〜路地に学ぶ生活空間の再生術』

 戦後復興、高度経済成長、道路や高速道路を中心とする都市施設が短時間でつくられ、生活空間の大改造が進められてきた。そして現在、こうした20世型のあり方から21世紀型の持続的な都市やまちへの転換が問われている。この本では、このテーマに即して路地に焦点を当てている。路地は失われた郷愁だけではなく、情報交換の場、安全な遊び場、人と地域の関わり合いが深く刻まれているものだ。今まで200年かけて継続してきた路地を残す方が、「ハコモノ」をつくることを目指すより地域の空間文化の持続可能性があると本書では述べられている。本書の構成は三章から成り立つ。一章まち路地再生のデザインの思想と方法、二章討論〜路地的空間をまちへどう展開するか、三章まち路地再生の実例である。路地をどのように都市、まちに活かしていけば良いのか、あるいは活かされているのかを本書では記述されている。

 様々な路地が紹介されている中で感じたことは魅力を感じる路地には歴史があるということだ。例えば神楽坂などの路地がそうである。そこには江戸時代から続く空間システムがまだ残っている。また本書ではヒューマンスケールという路地の特徴を活かした住宅の実例なども紹介されている。ただ同じ路地的空間を有しているとしても、やはり歴史のある路地とは別物のように思える。ここで疑問が生じる。歴史を感じるとは一体何であろうか。子どもの頃からその地域やそこに似た場所で暮らしていたというのであれば、懐かしさを感じそれを良しとすることには納得がいく。しかし初めてその地域に行く人達はどのようにして歴史を感じるのであろうか。路地の統一感、石畳、塀、それらだけが歴史を感じるものであれば、それに着目し新しく造れば済むことだ。実際はそうではないだろう。本書の趣旨とは多少ずれている気もするが、本書をきっかけにこうした疑問が生まれた。

宇杉和夫+井関和朗+岡本哲志編著『まち路地再生のデザイン〜路地に学ぶ生活空間の再生術』、彰国社、2010年

文責:河野和彦(環境情報学部3年)

by naoto.nakajima | Posted in 書評・文献紹介 | 【書評】宇杉和夫他編著『まち路地再生のデザイン〜路地に学ぶ生活空間の再生術』 はコメントを受け付けていません |

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